□現在、日本は木材の国内消費の約60%を輸入しているが、毎年の木の成長量の1/4しか利用していない。森林は日本国土の2/3を占める。

□戦後の建築史

:1950年代に、鋼・セメントの生産が復興してくると木造建築排斥の動きが顕著化。
:1955年、「木材資源利用合理化方策」が閣議決定。国・地方公共団体が率先して建築物の不燃化を促進し、木材消費を抑制する。
:1959年、日本建築学会も木造禁止決議を行い、木造建築の排除を働きかける。木造は住宅建築に限定される。
         「空白の20年」「大型木造の失われた20年」
:1980年、木造の見直し木造住宅も技術的にも他の構造に劣らない性能が実現できるようになる。消費者の「木造志向」も衰えない。
:1987年、都市部で3階建て木造住宅建設。同年、「燃えしろ設計等」の導入により、大断面木造建築が建てられるようになる。
(松本ドーム。出雲ドーム)
:次々と大スパン木造建築が建てられた。「第一次大型木造の復活期」
:2010年、「木材利用促進法」公共建築における木材利用の促進。小規模な公共建築物はすべて木造とする。180度方向転換。
:2021年、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材利用の促進に関する法律」と改められ、対象が公共建築物から
 建築物一般にも拡大。
:CO2削減、SDGsへの関心が高まる中、事務所ビルや商業建築の木造化がテーマとなりつつある。
 今後、建築物の木造化・木質化は一層進むものと期待される。

□1980年代の大型木造は「大スパン」がテーマであったが、現在の大型木造のキーワードの一つは「多層木造」である。

耐火木造工法:多層ビルを建てる場合、耐火性能が重要課題
:一般的に、4階建てには1時間耐火の性能が要求され、5階建て以上には2時間耐火の性能が求められる。
:木造の耐火構造には、「被覆(メンブレン)型」「鋼材内蔵型」「燃え止まり型」の3タイプあり、いくつかの仕様が1時間耐火・2時間耐火の認定取得。
:木造建築の耐火による高さ制限はなくなりつつある。

木材の構造性能:強度に異方性がある。繊維方向は「比強度が大きい」
:含水率が繊維飽和点 約30%を境に、含水率が小さくなると強度が大きくなる。伐採・乾燥を考慮すると、3か月以上の十分な期間が必要。
:木材は、引火点が約250度、発火点が約450度。燃焼するときには1分で約1㎜ずつ表面から内部に進行していく。
:木造建築は、振動と遮音に留意する。

構造・構法:軸組構法、枠組壁工法、混構造(ハイブリット)

使用材料・木質材料

Ⅰ)製材
1.構造用製材:一般的な材料(JAS規格)
  ①目視等級
  :甲種構造材(1級,2級,3級)主として高い曲げ性能(甲種Ⅰ:短辺36㎜未満、甲種Ⅱ:短辺36㎜以上、長辺90㎜以上)
  :乙種構造材(1級,2級,3級)主として圧縮性能
  ➁機械等級
  :機械によりヤング係数測定。(E50,E70,E90等)目視等級の乙種構造用3級の基準を満たすもの
2.造作用製材:敷居、鴨井、壁その他の造作に使用する針葉樹製材
3.下地用製材:屋根、床、壁等の下地に使用する針葉樹製材
4.広葉樹製材:製材のうち、広葉樹を材料とするもの
5.枠組壁工法構造用製材:構造部材として使用する針葉樹のもの。
 ※その他、JAS製材の品質表示(含水率SD20,D20、保存処理K1,K2,K3,K4、一方,二方,三方,四方)
 ※慣用的等級区分(1等、特等、小節、上小節、無節)
 ※無等級材(Non JAS)基準強度が与えられている。目視等級の甲種構造材2級以上の品質が必要。
 ※含水率基準15%以下(込栓接合又は耐力低下の恐れない場合は30%、以外は20%)

Ⅱ)集成材
1.構造用集成材:ひき板(ラミナ)を、その繊維方向をほぼ平行にして積層接着 
 ※同一等級構成集成材、異等級構成集成材(対称異等級構成、特定対象異等級構成、非対称異等級構成)
2.木質ハイブリッド集成材:鉄骨などを木材(集成材)で被覆した材
3.構造用単板積層材(LVL):切削した単板を、その繊維方向をほぼ平行にして積層したもの
 ※A種(特級、1級、2級):単板を全て平行に積層、B種:全体の3割まで直行方向に単板を入れる
 ※造作用単板積層材もある。
4.直行集成材(CLT):ひき板(ラミナ)を並べた層を、板の方向が層ごとに直行するように重ねて接着した大判の厚板パネル。
 ※同一等級構成、異等級構成。3層3プライから9層9プライまで6種類
5.構造用合板:切削した単板を、その繊維方向に互いに直行させながら積層接着したもの。
 ※接着程度で特類1類、品質や曲げ性能で1級2級。特類2級を多く利用。

Ⅲ)その他の木質系面材
7.その他面材:木材をより細かいエレメントに分解して接着剤で再構成した構造用パネル(OSB)パーティクルボード(PB)繊維板(MDF)

防耐火対応(木造)
耐火建築物
 ・仕様基準(被覆型、燃え止まり型、鋼材内蔵型)
 ・性能設計(耐火性能検証)
準耐火建築物
 ・イ準耐火建築物被覆型、燃えしろ設計など)
 ・ロ準耐火建築物(外壁耐火構造など)
その他建築物
 ・躯体無被覆、軒裏防火構造(面積に応じて防火壁、小屋裏界壁などの区画措置)

防耐火構造の設定

建築規模によるもの(法21条)
 ①建物高さ16m以下で延べ面積が3000㎡以下:防火上の規制を受けない。
 ➁高さ16m超、3000㎡以下で2階建て、3階建て:1時間準耐火の措置が必要。
 ➂3000㎡超:耐火建築物とするか、3000㎡以内ごとに壁等で区画することが必要。
建物用途によるもの(法27条)
特殊建築物では、その用途、床面積、その回数により、耐火建築物や準耐火建築物にすることが必要。
.建設地の防火地域指定によるもの(法61条、法22条)
 ①指定なし(無指定地域:防火性能は求められない。
 ➁指定なし(法22条区域:延焼の恐れある部分の外壁は準防火性能、屋根は不燃化が求められる。
  特殊建築物(不特定多数の人が利用)や1000㎡を超える大型建築物や3階建て以上の中層建築物では、より厳しい性能が求められる。
 ➂準防火地域:延焼の恐れある部分の外壁・軒裏は準防火性能、屋根は不燃化が求められる。
  特殊建築物や500㎡を超える大型建築物、3階建て以上の建築物では、準耐火建築物にするなど、より厳しい性能が求められる。
 ④防火地域:床面積100㎡以下、階数2以下の建築物は準耐火建築物とする。
  それを超える建築物は耐火建築物または同等以上の性能を有する建築物とする。
  屋根は不燃化が求められる。延べ面積50㎡以下の平屋付属建物は、外壁・軒裏を防火構造でもよい。

内装制限と木材利用の検討

:基準法により、避難安全が重要となる特殊建築物、一定規模以上の建築物、排煙上無窓の居室、火気使用室に内装制限が適用される。
 (壁・天井が対象。床は規制外)
:木質感のある建物を実現するには、以下の事項に配慮する。
1.居室の壁は、床から1.2m以下の部分に木材を利用できる。
2.居室では、天井を準不燃材料以上にすれば、壁全体に木材をしようできる。
3.難燃材料、準不燃材料、不燃材料として大臣認定を取得した木材があるので、要求性能に応じて利用する。
4.壁、天井の見付面積の1/10の面積までは適用外なので、1/10以下の面積で木材を見せるデザインとする。
5.スプリンクラー設備等の消火設備と排煙設備が設けられている場合は、内装制限の適応が除外される。

防火区画等

:木造建築の延べ面積が1000㎡を超える際は、防火壁等によって、1000㎡未満とする必要がある。
:3000㎡を超える場合は、耐火建築物を求められるが、壁等による面積制限を受けない方法の他に、別棟解釈による面積制限を受けない方法がある。

避難安全措置

:建物出入口から道路までの間に、一定以上の有効幅の敷地内通路を設ける必要がある。
:耐火建築物以外の大規模木造建築物の場合、建物間や建物と隣地境界線間に通路が必要となる。

遮音性能

:木構造は剛性が低く重量が軽いために、床衝撃音遮断性能をRC造並みに高めるのは難しい。
:特に重量床衝撃音遮断性能については、共振周波数が重量衝撃音の主成分である63Hz帯域に重なることから工夫が必要。
:重量衝撃音の対策として、木造建築は通常L-80レベルであるが、L-60を目安として、防振対策を徹底したL-50の性能を担保する構法もある。
:部位の性能に期待するだけでなく、建物上下階間で音的な師匠を生じない計画とすることも有用な方法。
:軽量床衝撃音対策は、床仕上げを弾性のあるフローリングにする、カーペットにする方法などが有効。

部位衝撃音適応等級:特級適応等級:1級適応等級:2級適応等級:3級
客室・客室間界床重量衝撃音L-45L-50L-55L-60
軽量衝撃音L-40L-45L-50L-55

省エネルギー基準

①建築物に導入する設備機器等の一次エネルギー消費量を評価する基準
:当該建築物の空調や給湯、照明等のエネルギー用途ごとに一次エネルギー消費量を計算し、その合計が別途計算する基準値を下回っていれば良い。エネルギー消費量が多いのは空調設備(49%)、照明設備(24%)
➁建築物の外壁や窓等の外皮性能を評価する基準
:屋内周囲空間の単位床面積あたりの年間熱負荷、いわゆる年間熱負荷係数PAL*(パルスター)である。PAL*は、建物形状と屋根・壁・窓・外気に接する床などの外皮の断熱性能・日射遮蔽係数で決まり、建物用途ことに地域の区分(1~8地域)に応じて基準値が決められている。
非住宅建築は、内部発熱が大きい。断熱性向上により、暖房負荷が減る一方、冷房負荷が増加する傾向。庇等の日除けや日射遮蔽性能の高い窓の採用など、冷房空調負荷の削減に配慮する必要がある。